ナポリの小枝とノルウェーの切り株

ノルウェー、ヴィーガン、猫とおそ松さん

ベルゲン特急3 ダニ木モンク郎

Razika
Om Igjen
 
一晩かけてベルゲンを歩き回った私たちは
ホステルの受付が始まる8時に解放されたドアを通って
チェックインを済ませたが
清掃のため、部屋に入れるのは14時になると言われ
荷物だけ預かってもらった後、再び街に放り出されてしまった。

朝のベルゲンはしっとりどんより曇り空だったが、
それでも、街灯が少なく暗かった夜を一晩外で過ごした後は
明るくて清々しい朝に感じた。

8時にもなればカフェは開いているので
ホステルの裏道を辿って着いたオーガニックカフェで一息つくことにした。
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当時はまだヴィーガンでなかった私はブラウニーを注文した。
オスロよりずっと安いのに、量も多いし、生クリームのデコレーションが付き、
その上オーガニックとなるとテンションが上がらないわけがない。
このカフェは二人のお気に入りになり、
滞在中何度かコーヒーを飲みに行った。

その後、駅もホステルもベルゲンの中心街と海に出るまで
数分もかからない場所にあることがわかり、
コンパクトな街に便利さと街で見かける人たちに一種のローカル感を感じて
親近感がわいてきた。

 
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土曜日のベルゲンは窓辺に優しい照明が灯り、
ゆっくり時間が進んでいる感覚と同時に
子供の頃から想像していた“本当の人生”を目の前に見せられているようだった。
それを表現するのは難しいけど、一種の現代画家が描く何気ない
木造住宅の街の風景に、いつも帰りたい気持ちで一杯になることがあった。
それが始まったのはまだ小学校にも入っていない頃で
自分の髪が黒いことや着物を着ること、神社・仏閣にお参りすることに
どうしても納得できない子供だった。

美輪明宏だったら、“それは本来あなたがいる場所だから”と言ったであろう。

イタリアに初めて降りたったときも、あんなに憧れていたのに
ちっとも気持ちが高揚しなかったし、
石造りの歴史的建造物に知識や経験なしに何の感動もなかった。

気持ちがこんなに揺さぶられているのに
ここからカミッラのカプチーノ欠乏症がひどくなり、
観光ではなくカフェ巡りが始まってしまった。

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かわいいハートを描いたカプチーノ、イタリアでは見たことがない。
コーヒーを入れてくれたのはかわいい金髪の女性だったため、
“うれしくない”というカミッラ。
これ作るの、結構練習が必要なんだけどね。

私も結構疲れが出てきて、
14時にホステルの部屋に入るまで、
ずっとこんな感じでカミッラのカプチーノ巡礼に付き合っていた。
一晩眠れないことはよくあるけど、
一晩歩き回ることなんて初めてだった。

時間が来て、ホステルの二人部屋に入り
少し落ち着いたが、私は少し横になっただけで
眠れそうもなかった。

カミッラはしっかり熟睡して、オスロから持ってきたカップ麺で
夕食を食べて出かけようという。

辛いもの好きな私に辛ラーメンを、
ノルウェーの意識高い系の自分にはライスヌードルを用意してきたらしい。
ライスヌードルとは、小麦でなく米で作られた麺なので
低カロリーでコレステロールフリーな上、
アジア系食材は当時のノルウェーではオシャレ系が食べる
トレンディ―な食べ物だったらしいが、
蓋を開けて、中身が少ない自分の麺と
出来上がった後に漂う韓国ラーメンの香りとビジュアルに
同じものを買っておくべきだったと後悔していた。

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18時をまわる頃には日も暮れてくる。

ホステルの部屋から見る日の入り後の青い夜は、昨晩とは違って安心感を覚えた。

そのあと、例のアフリカの呪いカフェ“Macumba”で
サルサ・ナイトというサルサダンスの集いがあるらしく
当時、教室に通っていたカミッラは着替えをして
私はボロボロのズボンと毛糸の上着を着て出かけていった。

狭い店内に10人強のヒールを履いた女性と正装している男性が
激しく踊り、かわるがわるパートナーを変えて練習している中へ
カミッラも加わっていった。

お酒を飲まない私は注文するものがないので
テーブル席に座ってその様子を見ていたが、
隣の席にも友達の付き合いで来た風の若い女子がいて、
目が合うと話しかけられた。
多分、“激しいね、付いていけないよ~”って言ったと思う。
ノルウェー語だったので、相槌程度ににっこりするしかできなかった。

その頃、カミッラはステキな南米系のサルサ・マスターに
個人レッスンをしてもらって嬉しそうだった。

ダンスの時間が終わると、酒を注文していたが、
二杯目は断られていた。
私たちがノルウェーであり得ないくらいハイだったらしく、
カウンターのバーテンダーに撤収するようにと
ノルウェー語と英語で注意されてしまい、店を後にした。

また追い出されたけど、楽しい時間を過ごしたことに変わりはない。

まだ深夜というには早いくらいの時間だったので、
入場無料の大学生協のディスコに行くと
中が明るくて人もスタッフとその友達らしき人がいるだけ、
イタリアでは夜はこれからなのに、
ノルウェーの大学生はいつ羽目を外すのだろうと
笑いをこらえながら、コンビニでホットドッグをつまんで
ホステルに帰ることにした。

この日、私はベルゲンで一生を過ごしたいと強く思った。


ベルゲン特急4へつづく・・・