ナポリの小枝とノルウェーの切り株

ノルウェー、ヴィーガン、猫とおそ松さん

西洋美術史はリバイバルの歴史?(2)

クリスマスには嫌われ者として
登場するローマ皇帝アウグスト(在位27B.D.~14A.D.)
 
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カエサルの後を継ぎ、ローマを共和制から帝王制に変え、
更には中途半端な立場にあったエジプトを傘下に入れ、
戦い続きだったローマに平和をもたらした
初代皇帝である。
 
と、同時に、クリスマスにはちょっと
目の敵されるようなローマ人権力者。
 
人口調査を行ったため、
キリストを身ごもったマリアとヨゼフは登録のため、
故郷であるナザレに戻っていくが、
その途中で生まれたのが、イエス・キリスト。
馬小屋で出産しなければならなかったのは、
他人の迷惑を考えない、アウグストによる国勢調査
原因だった・・・。
 
・・・まあ、中世はベッドがなかったため、
性行為も出産も畑で行われていたから、
馬小屋での出産もそこまで悲劇的ではないかも・・・。
一説には馬の体温で、冬でも暖かい場所といわれているし、
聖徳太子も馬小屋で生まれたし・・・。
 
 
古代、つまりローマ時代においては、まったくの無知なので、
アウグストに関する知識はこれが限界。
 
芸術の分からない私にも有難いのは、
アウグストの時代の絵画表現には、エジプト的な表現が現れることで、
単調なローマ絵画から少々、はみ出したテーマを境目に
良くない頭でもできる暗記を随分助けてくれる。
 
 
さて、アウグストのテーマはこちら。
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太陽神アポロ
 
ギリシャ神話に出てくる、ちょっと残酷な神様。
エトルリアギリシャでは、勝利の象徴として、
馬車を引きの姿で、描かれることが多いのだが、
アウグストの家に描かれたものは
マッタリモード。
色使いもパステル調で癒し空間系。
 
 
 
 
・・・こちらのアポロ、"休憩中"なのである。
アウグストの時代は、ルビコン川を渡ってしまった
"激動"のカエサルの時代に終止符を打ち、ローマに平和をもたらした彼が
新ローマのシンボルとして選んだテーマなのだ。
 
 
この時代は・・・。
 
西暦前1世紀から西暦1世紀。
 
時代背景: ローマ共和政時代、僭主政治的なカエサルルビコン川をまたいで
はりきり戦争ばかりしていた時代。
その不満も聞かずに、自分の部下に暗殺されてしまう。
"ブルータス、お前もか!"というやつです。
 
簡略的に話すと、クレオパトラと恋仲であったカエサル
エジプトをローマの属州にすることは出来なかったのだが、
アウグストが率いた軍は、エジプト貴族の家庭崩壊を利用して
正式にローマの傘下に収めることに成功した。
 
人物: 初代ローマ皇帝アウグスト・・今回の主役
     
     アグリッパ・・アウグストの補佐、戦略に弱かった若き皇帝を補佐し、
             ローマの自宅以外にも、ナポリ近郊に豪華な別荘を持っていた。
 
     リヴィア・・アウグストの最初の妻、後に後継者となるティベリウスを出産。
           アウグストの死後は摂政となって、幼いティベリウスとローマを牛耳る。
           ローマ郊外に素敵な家を持っていた。
 
注目すべき絵画作品: 
① Domus Augusta・・ローマ市内に建てられたアウグストのホワイトハウス
                              絵画作品はマスクの間、書斎"SIRACUSA"。
              
② Aula Isiaca・・上記の建物より少し、離れたところに建てられたもので、
                エジプト的要素が盛り込まれた、新しいモチーフとギリシャ古典期の混じった、
                              変わったデコレーションが見られる。
 
③ Villa di Livia・・奥様の別荘。ローマ郊外、フラミニア街道沿いにある。きれいな色使いのサロンが人気。
 
④ Villa della Farnesina・・ファルネシーナ荘。ローマ市内にあり、もともとはアグリッパの根城であった。
                     いろいろなスタイルが混合し、絵画館を思わせるような豪華さ。
 
 
この時代、ローマ美術は第3様式と呼ばれるスタイルを確立させる。
 
第3様式の特徴: 
立体画法は控えめになり、前スタイルで迫り出して見えた柱などは
仕切りの役割を持つようになったため、細くなる傾向があり、
あまり見られなかった、遠くを眺めるような風景の表現や派手な色使いが見られる。
 
アウグストの時代はその変換期に当たるため、
第二様式と混じったものが見られる。
              
それでは、少ない資料からその様子を探ってみよう。
 
①Domus Augusta アウグストの家
 
書斎、"SIRACUSA"
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天井部分の装飾は、この時期のものであることを
特徴付ける。
幾何学模様とカラフルな色使いは
奇抜なネロ皇帝のDomus Aureaでも取り入れられているが、これが後のルネサンス美術及び、バロック美術に
大いに影響を及ぼす。
 
バロック様式バチカン博物館の天井↓イメージ 4
 
 
 
 
 
中世には天井を石造りにする技術が消えたので、
このようなドラム天井を再び建築に取り入れることは
ロマネスク様式以降となる(11世紀)。
 
 
 
 
 
同じくアウグスト家、マスクの間
 
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中途半端な迫り出し具合に左右対照法が、ニセモノのような感覚を覚える。
壁中央部に描かれた大きなエセドラと、その両脇に見られるマスク。
このマスクは神聖なる神の家を象徴し、ところどころに描かれたカップはアポロの持ち物であり、
神の家なり、アポロなり、その実物を描かなくとも、
何を意味しているのかが分かる方法を用いている。
色使いの派手さと、絵の中の屋根の下に見られる四角い天井模様を
描くなど、細かい配慮に長けている。
 
 
② Aura Isaica
 
エジプト遠征に勝利を収めた後に造られたと見られる。
年代設定は紀元前30年頃。
 
エジプトで崇拝されていた、イシス教にインスパイアされたデコレーションが見られる。
東方をイメージする植物、蓮やナイルを象徴するシンボルが描かれ、
それに加えてイシス教では神聖な蛇(Ureaus)も見られるが、
ツチノコを連想させるような、胴体がでっぷりしたへぴさん。
資料がなくて残念。
 
天井の表現もかなり凝っているのだが、このサイトは撮影禁止なのか、
デジタル資料は見つからなかった。
 
③ Villa Livia
 
皇帝の奥様の別荘。
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広間に描かれた庭の表現、
こちらは伝説として小鳥により、緑がもたらされたという場所に家を建てた、
これは家族の繁栄も意味するため、時代が移り変わり、
奇抜なネロ皇帝により森ごと焼き払われてしまった。
サンダル履きで火事を見物するのが、彼の日常のようにさえ感じる。
 
こちらも左右対照法として、果物の木や大理石の柵に設けられたへこみ部分などが
利用されている。
壁の上部にはまるで岩石のような、黒い不定期な幾何学模様が描かれ、
そこからドラム天井に向かって黒く塗られている・・・・
この空間、"洞穴の中のオアシス"のようなイリュージョンが売りだったそうだ。
 
④ Villa della Farnesina
 
皇帝の片腕、アグリッパの家。
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テイスト的には聖域。いろいろなスタイルが入り混じっている。
両脇に見られるスフィンクスのエジプト的要素に、土台の柱、
そして支えているのはギリシャ神話の一シーンを描いた絵画。
この絵画はアッティカ地方(アテネ近郊)のスタイルを模倣したもので、
その地方で作られたギリシャ壷絵から、その類似性を割り出した。
 
中央部分は子供のディオニソスヘレニズム様式に描いた作品。
この作品、後にキリスト教美術における"幼子キリスト"のモデルとして
影響を与えているそうだ。
何もこの作品と関連付けなくても、親が子供を抱く姿・・・
何の変哲もないと思うのは私だけだろうか?
 
 
芸術にお金も注げたけど、平和を保ったアウグストのローマ。
 
 
そんなわけで・・・
 
 
 
カップルじゃなくて、政治だけど・・・Peacetime resistance、
 
ゲルマン民族にやられたとき、アウグストも歌ったかもしれない。
 
その後、ライン川ドナウ川境界線が引かれ、ローマの敵はゲルマン人に。