ナポリの小枝とノルウェーの切り株

ノルウェー、ヴィーガン、猫とおそ松さん

思い出ヨッブ

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今日はナポリで観光客の足元を見るような通訳バイトの思い出話です。
いつもより長いので、暇な人だけ読んでね。

通訳バイトはだいたい、知り合いの知り合いの知り合いから
仕事の前日に依頼を受け、
仲介料はしっかり取られているだろうと思われますが、
その辺については追及すると仕事が来なくなるので
あまり探らないようにしていました。

思い出深かった仕事は、脳梗塞を患った日本人観光客の
病院付き添い通訳です。

依頼主は豪華客船で地中海をクルーズしている70歳を過ぎたジジイらしく、
二日後には飛行機で日本に帰国が決まっている人だとか。

夜遅くに電話をかけてきた添乗員さん、
女性の声を無理して出している風の気になるドラァグクイーン声に
正直同様を隠せなかったが
金持ちで年金が使えきれなくて困っているであろうジジイのプライドを
異国の異文化の地でどうやってズタズタに裂いてやろうか
楽しみにしていたのですが・・・

翌朝、待ち合わせの時間に丁度ついた船から、
ぞろぞろとギラギラ日本人が下船している最中で、
ウンザリ気味の私。

人の列が引いたあと、ゆっくりと車椅子を引いて出てくる
南アメリカ系の船員とそこに座る意識の薄そうな、しおれたオッサン、
横には、元福娘風のふくよかで縁起のよさそうな笑顔を浮かべたおばちゃん、
そして、昨晩電話をかけてきた性別不明の添乗員さんが来た。

何でもこのおっさん、前日の夕方、急に意識を失ったそうだ。
数年前に脳梗塞を患ったことから再発を恐れて
緊急で検査を受けたいという。

不安であろうオッサン、それでも笑顔で挨拶してくれた。
おばちゃんもおしゃべりだけど、恒例の金持ち自慢よりも
旅行先で見た景色の話や船内から見た海の話をしてくれる。
添乗員さんも気は優しくて口の悪い女性でした。

救急タクシーに乗るまでの道すがら、
診察をスムーズに進めるために、病歴、服用している薬、
現在の症状を詳しく質問するのですが、
気は優しくて口の悪い添乗員さんが全て、
まとめて薬のパッケージまで持ってきてくれていました。
・・・ち、力持ち!

こんな人たちを乗せて、病院へ向かうタクシー
行き先は生きては出られないような風貌のナポリの救急病院です。

不安を和らげようと、車内から見える歴史的建造物のガイドや
皆が楽しみにしていそうな、ナポリ料理の話をして気を紛らわせることにしました。

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カポディモンテ王宮博物館。
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どちらもブルボン王朝時代を代表するナポリ建造物で、
その時代のナポリが如何に繁栄していたかを知る
一番わかりやすい文化遺産です。


30分後、病院の救急病棟到着。

ここからはどちらかと言えば、私の不安・・・
ただでさえ、健康に不安を抱えているオッサン、
恐怖を煽られて症状が悪化するのではないか心配でした。
と、いうのも救急病院はあまり居心地の良いところではない。

狭い診察室には4,5台の診察台が置かれ、
そこに収容しきれない急患の方々は
廊下で立ちっぱなし、もしくは地べたに寝転ろび、
看護師が部屋から出てくるやいなや、
すごい勢いで自分の苦痛を訴え、早い者勝ちで診察される。

しかも、事実上待合室となっている廊下では
いろいろな症状で駆け込んだ人たちを見る嵌めになる。

伝染病を思わせるような咳や嘔吐を繰り返す人、
事故にあったのか、血だらけで悲鳴を上げている人、
そして、私も眼から血を流しながら診察を待ったこともある。

診察室から聞こえる医師の指示も精神的ダメージが強い。

“心停止から何分経った?”(これって死亡診断中?)

“ウイルスを検出しろ!”(ええ~伝染病の人がこの空間に?)

豚インフルエンザだね、家族に連絡を”(・・・・・)


そんな会話が聞こえる病院が、せめてこんな建物だったら良かったんだけど・・・
(これはホーヴァルやガブちゃんがよく慰問に行くノルウェーの病院です)
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病院自体も15~18世紀の元修道院だったり、
70年代に建てられた、当時は白かった建物なので、
人体実験でも行われているかのような、タイル張りの診察室に
切れかけた蛍光灯の暗くて青い光が、
野戦病院バイオハザードに出てくる廃病院風・・・。

予約を入れてあったのですぐに診察してくれた
陽気に振舞う医者とハゲでコミカルな見た目の看護師が
せめてもの救いだろうか?

気は優しくて口の悪い添乗員さんがまとめてくれた
診察用の観察レポートを医者に告げ、
簡単に診察を済ませ、電磁波で脳の輪切り写真を撮り、
その現像に時間がかかるので、バールでコーヒーを飲んで来いと指示される。

そのバールもまた、よく言ったら昭和風、
悪く言ったら、怖いババア経営の近所の駄菓子屋風。
ご夫婦と一緒にカプチーノをいただきますが、
廃病院風施設のバールでは、かわいいカップでコーヒーをいただけるわけもなく、
出てきたのはプラスチックのコップ。

ナポリでも屈指の豪華バール、ガンブリヌスのようなカップを期待してはいけない。
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意識の薄いオッサンが、急に話したくなったのか、
カプチーノを飲みながら、今回の旅で見た来た風景について話出しました。
おばちゃんは船でおやつに出されたマフィンを鞄から取り出し、
半分にして私にお茶請けサービスをしてくれました。
そして、高血圧を合併していたオッサンはコーヒーを二口だけしか頂けず、
おばちゃんが残りを取り上げたかと思いきや、
ほとんど空になっていた私のカップ
自分の旦那の飲みかけジジイ汁入りコーヒーを並々と注ぎ
それをケロリと飲み干す私。

実は私、誰かの食べ残しが平気なニンゲンです。
家でもババアの食べかけやモンスター弟の飲みかけを
平気でベロりと平らげています。
それに、当時はカプチーノを気軽に飲める経済状況でもなく、
有難くいただきました。

 
午後に差し掛かろうとしていた頃、
長い現像時間の後に、オッサンに脳梗塞らしい箇所は見つからず、
お医者さんから旅行を続けても大丈夫という太鼓判をもらって、
不安から解放されました。

意識を失った原因は、どうやら高血圧の薬にあったようです。
薬を飲むことで血液の流れがスムーズに行かなくなったらしく、
日本に帰国するまで、その薬の服用を止めるように指示されました。

ここで問題がまた発生します。

診察代の保険請求です。

事前に海外旅行保険で、脳梗塞でも入れるという保険に入ってきたそうですが、
医師の診断が脳梗塞ではないということで、
保険請求ができないと旅行代理店に断られてしまいました。

不安から解放された夫婦と別れを告げて
気は優しくて口の悪い添乗員さんと昼食をしながら、
保険請求の手続きを行っていたんですが、
病院を出た後で、この事実を知って保険の代理店となっている
ローマのJTB支店に何度も電話で状況を説明しますが、
相手はダメの一点張り・・・
これ、病院にいる間にわかっていたら
お医者さんに協力してもらえたのに!
(カルテに工作を加えてもらうということです!)

不快感を全く与えないご夫婦から
別れ際に通訳料の半額近いチップをいただいていたので
何としても、それ以上の出費は抑えてもらいたかった!

…と言っても、診察代金は1万円ちょっとでした。
CTスキャン込みの金額としては、
保険が効く日本でも同じくらいはかかるのではないかと思います。

気は優しくて口の悪い添乗員さんからも
“今回、組ませてもらった通訳さんがいい人で良かった”と
昼食までご馳走になってしまいました。

この方が言うには、現地ガイドや通訳はかなりの割合で
鼻持ちならない人が多いそうです。

これ、よ~くわかります!

私の経験から、感じが悪いくらいに仕事をしないと
添乗員たちや観光客から一生に一度だけの旅行だからと
理不尽なお願いや不当な扱いを受けるからでしょう。

私の方も、柔らかい態度のイガイガな
怖い添乗員さんに慣れていたので、
今回の心底やさしくて口だけ悪い添乗員さんの
楽しいおしゃべりやちょっとして気遣いが嬉しかったです。

残念ながら、この方とその後、仕事でお会いすることはありませんでした。
別の本職があるそうで、バイトの添乗員はお辞めになったのだと思います。

現在、あの老夫婦はどうしているか、ちょっと気になります。